黄金を掘った坑道が、こんどは酒を育てている ― 薩摩金山蔵の日本酒「薩州正宗 純米吟醸酒」と西郷輝彦「青年おはら節」|味わい・合うおつまみ

執筆者:

カテゴリ:

この記事を耳で聞く

表示中の言語で読み上げます。音声は端末の設定によって異なります。

今日のペアリング

酒蔵の話

鹿児島県の薩州正宗 純米吟醸酒

鹿児島県いちき串木野市にある串木野金山は、江戸末期から昭和にかけて日本有数の金鉱山として栄え、総延長およそ120kmにも及ぶ坑道が今も残っています。観光施設「ゴールドパーク串木野」として営業していたこの金山跡は2003年9月に一度閉園しましたが、市の要請を受けて、2005年4月23日、濱田酒造が運営する「薩摩金山蔵」として生まれ変わりました。坑道の中は年間を通じておよそ19℃に保たれており、低温でじっくり発酵させる吟醸造りに適した環境です。

そして2012年、1972年以来40年間途絶えていた鹿児島県内での清酒造りが、この坑道の中で再び始まりました。生まれたのが「薩州正宗」です。純米吟醸酒は国産米を使い、低温発酵によって華やかな香りとすっきりとした甘みを引き出した一本。仕込み水には、蔵のそばにそびえる霊峰・冠岳から汲み上げた天然水が使われています。蔵を営む濱田酒造は明治元年(1868年)創業(法人としての設立は昭和26年)、現在は濵田雄一郎会長・濵田光太郎社長のもと、本業の本格焼酎とともに、この清酒も育てています。

土地の話

いちき串木野市は薩摩半島の北西部、東シナ海に面した土地です。串木野金山は幕末から明治にかけて日本の近代化を支えた鉱山のひとつで、坑道には金を掘り出した人々の歴史が刻まれています。蔵のそばにそびえる冠岳は、秦の方士・徐福がこの地に上陸したという伝承も伝わる山岳信仰の山で、山麓には中国風庭園「冠嶽園」が整えられています。かつて金を掘り出した坑道が、いまは静かに酒を育てている――そんな土地の記憶を、薩州正宗は今に伝えています。

音楽の話

「青年おはら節」は、西郷輝彦が1965年に発表した楽曲です。郷土の民謡「鹿児島おはら節」を題材にした一曲で、作詞は星野哲郎、作曲は米山正夫が手がけました。

鹿児島おはら節は、江戸時代初期、日向国安久(現・宮崎県都城市)の郷士が陣中で歌った「安久節」が、鹿児島・原良(はらら)の郷士によって歌い継がれ、発祥地の名から「小原良節(おはらぶし)」と呼ばれるようになったと伝えられる民謡です。鹿児島県西之表市出身の新橋喜代三が1933年(昭和8年)前後にレコード化したことをきっかけに全国へ広まりました。1949年からは鹿児島市で「おはら祭」が始まり、毎年多くの踊り手が「おはら節」や「鹿児島ハンヤ節」を踊り継いでいます。

西郷輝彦は1947年2月5日、鹿児島県鹿児島郡谷山町(現・鹿児島市)生まれ。1964年2月にクラウンレコードから「君だけを」でデビューし、橋幸夫・舟木一夫とともに「御三家」と呼ばれる人気を得ました。芸名は郷土の英雄・西郷隆盛にちなんだものです。デビューの翌年に発表した「青年おはら節」は、鹿児島生まれの青年歌手が、故郷に伝わる民謡を自らの声で歌った一曲でした。

なぜこの組み合わせなのか

薩摩金山蔵は、かつて金を掘り出した坑道に、新しい役目を与えました。40年間途絶えていた清酒造りを、同じ土地の奥深くで静かに再び始めたのです。

「青年おはら節」もまた、江戸時代から歌い継がれてきた郷土の民謡「おはら節」に、若い歌手の声で新しい命を吹き込んだ一曲です。西郷隆盛の名を芸名に持つ、鹿児島生まれの青年が、故郷の唄を歌う――古いものが途絶えることなく、形を変えて続いていく。坑道の中で醸される酒と、民謡を受け継ぐ歌。どちらも、この土地が大事に守ってきたものが、新しい世代の手で生き続けている物語です。

この一本を、探すなら

※楽天市場へのリンクは広告(アフィリエイト)です。在庫・取扱いは変動します。お近くの酒販店でも、ぜひ銘柄名を伝えて探してみてください。

🌡️ おすすめの飲み方:よく冷やして。低温発酵による華やかな香りとすっきりとした甘みは、冷やすことで一番きれいに引き立ちます。

合わせたい「アテ」

鹿児島県の薩州正宗 純米吟醸酒

  • 黒豚しゃぶしゃぶ
    鹿児島を代表するブランド肉「鹿児島黒豚」。昆布だしでさっとくぐらせた薄切り肉の脂の甘みとやわらかな口当たりに、純米吟醸酒のすっきりとした甘みがよく合います。
    レシピはこちら:クラシル「豚肉で基本のしゃぶしゃぶ」(黒豚でも同じ作り方でできます)
  • さつま揚げ
    鹿児島の郷土料理として親しまれる練り物。魚のすり身の旨味と揚げたての香ばしさに、純米吟醸酒の華やかな吟醸香が重なります。
    レシピはこちら:クラシル「山芋でふわふわ 手作りさつま揚げ」

科学的にひとこと:豚肉の脂質は、日本酒の酸味とアルコールによって口の中でさっぱりと洗い流され、後味を軽くしてくれます。すり身料理に含まれるイノシン酸やグルタミン酸などの旨味成分は、吟醸酒の華やかな香気成分と重なり合い、香りの余韻を長く感じさせてくれます。

この蔵をたずねるなら

薩摩金山蔵(濱田酒造)
鹿児島県いちき串木野市野下13665/JR串木野駅から車で約10分、南九州西回り自動車道 串木野ICから国道3号経由で約4km・約6分。
かつて串木野金山として掘られた坑道をそのまま使った見学コースがあり、トロッコに乗って坑道内を巡ることができます。

近くの観光スポット

  • 冠嶽園/いちき串木野市冠嶽|金山蔵から車で約15分・約6km
    薩州正宗の仕込み水を汲み上げる霊峰・冠岳のふもとに広がる中国風庭園。入園無料、営業時間9:00〜17:00、月曜・12月29日〜31日定休。訪問前に営業時間をご確認ください。
  • 伝兵衛蔵(濱田酒造 本社蔵)/いちき串木野市湊町|金山蔵から車で約15分・約7km
    薩州正宗と同じ濱田酒造が営む本格焼酎の蔵。蔵見学は1日2回(11:00・14:00)、事前予約制・有料(大人500円)。売店は9:00〜17:00、水曜定休。見学には事前の電話予約が必要です。

近くの温泉

  • 市来ふれあい温泉センター/いちき串木野市湊町|金山蔵から車で約15分・約7km
    いちき串木野市営の日帰り専用温泉。営業時間7:00〜22:00(第2月曜は16:00〜)、入浴料は大人350円。予約不要で日帰り入浴ができます。

※営業時間・定休日・日帰り入浴の可否は変わることがあります。おでかけ前に各施設の公式情報をご確認ください。

ひとことメモ(日本酒の用語)

  • 純米吟醸酒:精米歩合60%以下まで磨いた米を低温でじっくり発酵させた純米酒。華やかな香りが特徴です。
  • 精米歩合:玄米を削り、残った部分の割合。数値が低いほど、米を多く磨いていることを示します。

参考

内容に誤りがございましたら、お手数ですが info@soundrecords.jp までご連絡いただけますと幸いです。


Read this article in English

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
妊娠中や授乳期の飲酒は、おなかの赤ちゃんや母乳を通じて赤ちゃんに影響を与えるおそれがあります。飲酒運転は法律で禁止されています。