端材が火になるまで、雪どけが便りになるまで ― フォレストブルーイングのクラフトビール「木こりのピルスナー」と千昌夫「北国の春」|味わい・合う料理

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今日のペアリング

  • クラフトビール:フォレストブルーイング「木こりのピルスナー」/ドイツスタイルのジャーマンピルスナー・アルコール分5%/原材料はドイツ産の大麦麦芽とホップ/ForestBrewing(宮城県柴田郡川崎町川内北川原山238-60)
    公式サイト:https://forestbrewing.jp/
  • 音楽:千昌夫「北国の春」(1977年)/作詞:いではく、作曲:遠藤実
    YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=_Is08HAtQQE

醸造所の話

宮城県のフォレストブルーイング 木こりのピルスナー

ForestBrewing(フォレストブルーイング)は、宮城県柴田郡川崎町で薪ストーブ用の薪製造とイタリア製林業用ウインチの輸入販売を手がけてきた印刷会社・ハイパーグラフィック株式会社が、2023年5月に醸造を始めたクラフトビールです。同社の社長・鈴木和博さんの生家は北蔵王に山林を持ち、公式サイトは「東京ドーム4つ分の森」があると記します。

醸造所のウェブサイト(About us)によれば、きっかけは鈴木さんが林業先進国のオーストリアとドイツを視察したときのこと。「村や街ごとに続く小さな醸造所が醸す、多彩な風味」のビールに感銘を受け、帰国後、「ウチの薪で、ビールをつくれたら」という考えに至ったといいます。BE-PAL誌の取材によれば、この夢自体は2017年頃に芽生え、その後、日本とドイツで醸造経験を積んだブルワーとの出会いによって事業化が実現しました。

特徴は、薪の製造過程で出る端材を、そのままビール造りの燃料にする仕組みです。薪割り機にかけられない木や、割り切れずに残った部分が端材となり、これを敷地内の薪ボイラーで燃やして仕込み用のお湯を沸かします。BE-PAL誌によれば、2,000リットルの水を温めるのに、約1立方メートルの3分の2ほどの端材が必要とのこと。公式サイトはこの理念を「一本の木を、最後まで使い切りたい」という一文で表しています。醸造の仕込み水には、蔵王連峰の雪どけ水が注ぎ、仙台市の水瓶にもなっている釜房ダムの上流域の水を使います。主力はドイツスタイルで、ヘレス・デュンケル・ドッペルボック・ヴァイツェン・ラオホ、そして今回合わせる「木こりのピルスナー」をそろえます。ドイツ産の大麦麦芽とホップだけで仕込むジャーマンピルスナーで、アルコール分5%。草原を思わせるホップの香りと、なめらかな口当たりの苦みが持ち味です。

土地の話

川崎町は、蔵王連峰の北側、宮城県の内陸部にある山あいの町です。宮城県が定める建築物の積雪荷重基準では、この地域は標高に応じて0.5メートルから1.5メートル以上まで積雪量の想定が上がっていきます。標高が上がるほど雪が深くなる、典型的な東北の山間の冬がここにはあります。ForestBrewingの醸造所は、この町の中でも北蔵王の山裾、北川のほとりに位置し、下流には仙台市民の水源のひとつである釜房ダムがあります。

薪という産業そのものが、この土地の冬と結びついています。薪ストーブ用の薪は、雪に閉ざされる冬のあいだ使われ続けるもので、川崎町の山から切り出され、工場で製品に仕立てられます。その製造の過程で必ず出る、形が悪くて売り物にならない端材を、捨てずにビールの火に変える。冬を越す薪の副産物が、次の季節の一杯を生む燃料になっているわけです。

音楽の話

千昌夫(本名・阿部健太郎)は1947年、岩手県陸前高田市生まれ。農家の次男で、小学4年のときに父を亡くしています。1965年、作曲家・遠藤実に入門して「君が好き」でデビューし、1966年発売の「星影のワルツ」が1967年秋ごろから大ヒット、ミリオンセラーとなって1968年に初めてNHK紅白歌合戦に出場しました。

「北国の春」は1977年4月5日、ミノルフォンレコード・徳間音楽工業(現・徳間ジャパンコミュニケーションズ)から発売。作詞はいではく、作曲は遠藤実、編曲は京建輔です。Wikipediaによれば、オリコンシングルチャートでは100位以内初登場から通算92週目でミリオンセラーを達成しました(連続92週ではなく、何度か100位圏外に落ちながらの通算)。この「ミリオンセラー達成までのチャートイン週数」は、2003年に中島みゆき「地上の星/ヘッドライト・テールライト」(139週)に更新されるまで歴代1位でした。週間最高位は6位(1979年2月5日付・4月2日付)、年間チャートでは1977年度139位、1978年度55位、1979年度5位。1966年の「星影のワルツ」に続く千自身2作目のミリオンセラーとなり、第21回日本レコード大賞ではロング・セラー賞を受けています。

Wikipediaによれば、作詞のいではくさんの故郷は長野県南牧村で、この歌詞には信州の情景が重ねられています。一方、作曲の遠藤実さんは、自身が少年時代を過ごした新潟県をイメージして曲をつけました。つまり「北国の春」が描く故郷は、長野の記憶と新潟の記憶が重なってできた、どこか特定の一か所を指すわけではない、合成された「北国のふるさと」です。歌われているのは、都会に出てきた男が、故郷から届いた小さな包みを受け取り、早春の実家や家族、昔好きだった人を思い出し、「あの故郷へ帰ろかな」と繰り返す歌。2番では「雪解け せせらぎ 丸木橋」と、雪が解け始めた春先の景色が歌われます。

Wikipediaによれば、千昌夫はこの曲のテレビ出演時、師匠・遠藤実の反対を押し切って、古びた外套に帽子、丸縁眼鏡、使い込んだトランク、ゴム長靴、首に手ぬぐい、背中に風呂敷包みという、出稼ぎ労働者を思わせる身なり(古道具屋で5万4千円で仕入れたという)で歌唱していました。遠藤実は「いくらなんでも、みっともないから」と当初反対しましたが、この演出がヒットの一因になったとみられ、後に「恐れ入った。千はたいへん凄いプロデューサーだよ」と認めたと伝えられています。千自身も岩手県陸前高田市の生まれ。歌の中で故郷を離れて暮らす男を演じた千は、自分自身もまた東北の生まれでした。

なぜこの組み合わせなのか

まず、どちらも「北国の冬」という同じ気候の上に立っています。「北国の春」が歌う故郷は、長野の記憶と新潟の記憶が重なった、特定の一か所ではない合成の風景でした。ForestBrewingのある川崎町も、宮城県の積雪荷重基準が示す通り、標高が上がるほど雪が深くなる、まさに「北国」と呼ぶにふさわしい山あいの町です。歌が指す場所がどこか一つに決まらないからこそ、この曲は、名前を挙げられていないどんな雪国のふるさとにも重ねられる。川崎町もその一つです。

次に、両方とも「冬の間ためたものが、春先に形を変える」という同じ構造を持っています。歌の中では、都会で暮らす男のもとに、雪どけの時期、故郷から小さな包みが届き、それが「帰ろかな」という決意の引き金になります。ForestBrewingでは、冬のあいだ山から切り出され、工場で薪に仕立てられる過程で出た端材――売り物にならずに残ったかけら――が、ボイラーで燃やされてビールの湯を沸かす火になります。どちらも、冬の間に積もった小さなもの(包み/端材)が、次の季節が来るタイミングで、別の何か(帰郷の決意/一杯のビール)に変わる、という同じ順番をたどっています。

そしてもうひとつ、歌い手自身の立ち位置が重なります。千昌夫は岩手県陸前高田市という東北の町の生まれで、「北国の春」のテレビ演出では、故郷を離れて働く出稼ぎ労働者の身なりを選びました。ForestBrewingの社長・鈴木和博さんも、北蔵王に山林を持つ生家を離れ、林業先進国のオーストリアとドイツまで足を運んだ末に、「ウチの薪で、ビールをつくれたら」という夢を持ち帰り、自分の生まれた山へ戻ってその夢を実現させています。歌の中の男は、故郷を離れたまま帰ろうかと思い悩み続けますが、鈴木さんは実際に、一度外に出てから、故郷の山へ戻ってきた側の人間です。離れた者の視点で歌われる曲に、実際に戻ってきた者が造ったビールを合わせる。方向は少し違いますが、どちらも「北国のふるさと」を軸にした人生の一場面であることに変わりはありません。

この一杯を、探すなら

※楽天市場へのリンクは広告(アフィリエイト)です。醸造所がタップルームや直営店を持っている場合は、できたてを現地で味わうのが一番のおすすめです。

🌡️ おすすめの飲み方(温度とグラス):4〜6℃くらいの、しっかり冷えた状態で。ジャーマンピルスナーは炭酸の細かさと澄んだ色が持ち味なので、縦長で口がややすぼまった「ピルスナーグラス」に、グラスを傾けて静かに注ぎ、最後に少し立てて2〜3センチの泡を乗せてください。きめ細かい泡がホップの香りを閉じ込め、飲み終わるまで苦みと香りの角が崩れにくくなります。

合わせたい「アテ」

宮城県のフォレストブルーイング 木こりのピルスナー

  • 笹かまぼこの磯部揚げ
    農林水産省「うちの郷土料理」によれば、気仙沼・石巻・塩竈・閖上など豊かな漁場を持つ宮城県で、保存のきく焼きかまぼことして明治中頃に生まれたのが「笹かまぼこ」。旧仙台藩主・伊達家の家紋「竹に雀」にちなんで名付けられました。現在はスケソウダラなど白身魚のすり身が主原料です。薄力粉・鶏卵・青のり・水を混ぜた衣をくぐらせ、180℃の油で2分ほど揚げたのがこの一品。青のりの香りと、かまぼこのやさしい旨みに、ジャーマンピルスナーの草原のようなホップ香と細かい泡がよく合います。
    レシピはこちら:クラシル「笹かまぼこの磯辺揚げ」
  • ばっけ味噌
    同じく農林水産省「うちの郷土料理」が宮城県の郷土料理として挙げる、ふきのとう(宮城の方言で「ばっけ」)を使った味噌。江戸時代、山菜や木の葉を食べるときは味噌と合わせる習わしがあり、そこから季節ごとの「練り味噌」が生まれ、宮城では春にふきのとうで作る「ばっけみそ」がよく食べられるようになったといいます。アクを抜いたふきのとうを刻み、くるみと味噌、砂糖・酒とすり合わせて弱火で練り上げます。山菜らしい苦みと香りが、ピルスナーのすっきりした苦みと響き合い、炭酸が後味を軽くしてくれます。
    レシピはこちら:クラシル「春のごちそう ふきのとう味噌」

科学的にひとこと:ジャーマンピルスナーの「草原のような香り」は、ホップに含まれるミルセンやフムレンといった香り成分によるものです。笹かまぼこの磯部揚げのように油で揚げた料理には、強い炭酸と控えめな苦みが脂を洗い流す役目を果たし、ばっけ味噌のような山菜の苦みには、ホップ由来の穏やかな苦みが競合せずに寄り添います。

この醸造所をたずねるなら

ForestBrewing(フォレストブルーイング)
宮城県柴田郡川崎町川内北川原山238-60/山形自動車道・宮城川崎ICから車で約5分・約2.4km。
北蔵王の山裾、北川のほとりにあります。

近くの観光スポット

  • 国営みちのく杜の湖畔公園/川崎町大字川内字向原|醸造所から車で約5分・約3.6km
    釜房湖のほとりに広がる、東北で唯一の国営公園。醸造所と同じ川崎町大字川内にあります。入園料は大人(15歳以上)450円・シルバー(65歳以上)210円で、中学生以下は無料。開園時間は3月1日〜10月31日が9:30〜17:00、11月1日〜2月末は9:30〜16:00。休園日は毎週火曜日(火曜が祝日のときは直後の平日)、12月の第2・第3水曜日、年末年始(12月29日〜1月3日)です。

近くの温泉

  • 青根温泉 じゃっぽの湯/川崎町青根温泉9-1|醸造所から車で約20分・約13.2km
    青根温泉の公衆浴場で、源泉100%かけ流しの日帰り入浴ができます。営業は7:00〜21:00(受付は20:30まで)、年中無休(臨時休業あり)。入浴料は大人(中学生以上)400円・小人(小学生)200円で、未就学児は無料です。

※営業時間・定休日・日帰り入浴の可否は変わることがあります。おでかけ前に各施設の公式情報をご確認ください。

ひとことメモ(ビールの用語)

  • クラフトビール:小規模な醸造所が、造り手の個性を前面に出して仕込むビールの総称。大量生産の均一な味とは別の方向を目指しています。
  • ピルスナー:チェコのピルゼン生まれの淡色ラガー。澄んだ黄金色とホップの上品な苦みが持ち味で、世界で最も飲まれているスタイルです。
  • ホップ:ビールに苦みと香りを与えるつる性植物の毬花(まりばな)。品種によって、柑橘・トロピカルフルーツ・草原のように香りが変わります。
  • モルト:発芽させた大麦(麦芽)のこと。ビールの甘み・色・コクの土台になり、焙煎の深さで色と香ばしさが決まります。
  • ABV:アルコール度数(Alcohol By Volume)のこと。ビールでは5%前後が標準で、8%を超えると飲みごたえのある「強め」の部類になります。

参考

内容に誤りがございましたら、お手数ですが info@soundrecords.jp までご連絡いただけますと幸いです。


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